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最高裁判所第三小法廷 昭和46年(オ)57号 判決

主文

理由

上告代理人八代紀彦の上告理由について。

原審の確定したところによれば、

一  塩原ゆき(脱退原告)は、昭和四〇年一一月二四日上告人に対し金二六〇万円を弁済期昭和四一年三月三一日の約で貸し付け、期限までの利息として金三〇万円を天引して現金二三〇万円を交付し、上告人は、右貸金債務を担保するため、その所有にかかる本件不動産(当時の時価四〇二万四〇〇〇円)につき抵当権を設定し、右債務不履行のときは、その弁済に代えて本件不動産の所有権を塩原ゆきに移転する旨の代物弁済の予約を締結し、これに基づいて本件不動産につき昭和四〇年一一月二四日抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。

二  しかし、上告人は、右債務を履行しなかつたので、塩原ゆきは、昭和四一年一〇月五日上告人に対し右代物弁済予約を完結する旨の意思表示をした。

三  塩原ゆきは、昭和四三年六月八日被上告人に対し本件不動産所有権、前記仮登記上の権利、本件不動産明渡遅延による損害金債権等を譲渡し、同年八月一日上告人にその旨の通知をし、同年六月一〇日右仮登記につき移転の付記登記を経由した。

というのである。

右事実関係のもとにおいて、原判決は、本件不動産の価額から本件債務額を控除した残額金二一九万三二四八円の支払を受けるのと引換えでなければ被上告人の本訴請求に応ずることはできない旨の上告人の抗弁を主張自体失当であるとして排斥した上、上告人は被上告人に対し本件不動産につき前記所有権移転請求権保全仮登記の本登記手続をし、本件不動産を明渡し、かつ、本件代物弁済予約を完結する旨の意思表示のされた日の翌日である昭和四一年一〇月六日から明渡済に至るまで賃料相当の損害金を支払うべき義務があるとして、上告人に対しその義務の履行を求める被上告人の本訴請求を認容しているのである。

しかし、右確定事実によれば、本件代物弁済予約は、塩原ゆきの上告人に対する貸金債権を担保するために締結されたものであり、その実質は担保権と同視すべきものであると解されるところ、債権担保のため債務者所有の不動産につき代物弁済予約形式の契約を締結し、これを原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由した債権者は、債務者が弁済期に債務の弁済をしないため、予約完結権を行使した場合おいては、目的不動産を換価処分し又はこれを適正に評価することによつて具体化する右物件の価額から、自己の債権額を差し引き、なお残額があるときは、これに相当する金銭を清算金として債務者に支払うことを要するのであつて、この担保目的実現の手段として債務者に対し右物件につき本登記手続ないしその引渡を求める訴を提起した場合に、債務者が、右清算金の支払と引換えにその履行をすべき旨を主張したときは、債権者が第三者への換価処分による売却代金を取得したのちに清算金を支払えば足りると認められる客観的な合理的理由がある場合を除き、債権者の右請求は、債務者への清算金の支払と引換えにのみ認容さるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日大法廷判決参照)。

そうすると、これと異なる見解のもとに、被上告人が本件不動産の換価処分による売却代金を取得したのちに清算金を上告人に支払えば足りると認められる客観的な合理的理由があることを確定することなく、上告人の前記抗弁を主張自体失当であるとして排斥して、被上告人の本訴請求を認容した原判決は、法令の解釈適用を誤つたものというべきであり、この違法は原判決の結論に影響することが明らかである。論旨は、理由がある。

よつて、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、右部分についてなお審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻す。

(裁判長裁判官 江里口清雄 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 高辻正己)

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